「傷つく」ことについて

~心のエネルギーを守るためにできること~
(文・南山 勝宣)


■「傷つく」ことで消耗している心

不登校やひきこもりの状態にある方の多くは、過去に何らかの形で「心が傷ついた経験」を抱えておられるのではないかと感じています。
その傷によって、心のエネルギーが消耗し、無意識のうちに“逃避”や“充電期間”に入っていることもあるでしょう(本人にその自覚があるかどうかに関わらず)。

人生や日常生活を送る中で、人と関わっていく以上、何かしら心が傷つく出来事に出会うのは避けて通れない部分があります。
場合によっては、「ただ見られる」だけでも心が傷つくことがあります。

つまり、「心が傷つくことを完全にゼロにする生活」は、ほぼ不可能と言っても過言ではありません。
だからこそ、「傷ついたときに、どうやって自分の心を回復させていくか」が、安定した日常生活において非常に重要な鍵になるのです。


■「傷つく」ことにはいくつかの種類がある

「心が傷つく」といっても、その原因や背景はさまざまです。
思いつく限り、いくつか分類してみました。大半は以下のいずれかに当てはまるのではないかと思います。


1. 意図的に傷つけられる行為

これは論外です。
いじめやハラスメントなど、相手が意図的にこちらを攻撃してくるような行為は、社会的にも許されるべきではなく、可能な限り排除されていくべきものです。


2. 感情が爆発し、相手を攻撃してしまったことによる後悔

多くの場合、これは「3」のような価値観の衝突や、自分の思い通りにならなかったことへのストレスなどが原因となって、感情が制御できずに表に出てしまった結果です。

本来は避けたい事態ですが、感情のセルフコントロールができるようになると、少しずつ減らしていくことができると思います。


3. 価値観・感覚の相違や勘違いによる衝突

これは、日常で最もよく起こるタイプではないでしょうか。
「自分の価値観」を相手に押しつけてしまったり、逆に相手からの価値観の押しつけに反発したりする中で、摩擦が生まれてしまうケースです。

「正しい・間違っている」「良い・悪い」といった判断を、すぐに価値観で行ってしまうと、衝突が起こりやすくなります。


4. その場の空気や雰囲気による不安・緊張

直接的なやり取りがなくても、「空気に傷つく」ような場面もあります。
周囲の雰囲気から感じ取ってしまう居心地の悪さや緊張感が、知らず知らずのうちに心のダメージにつながることもあります。


5. 他者と自分を比較してしまうことからくる自己否定感

SNSや学校・職場など、他人の成果や様子が目に入る場面が多い現代社会では、他者と自分を比較して劣等感を抱いてしまうことも少なくありません。
そこから「自分なんて…」と自己否定感が生まれ、傷ついてしまうことがあります。


■「セルフコントロール」でできること、できないこと

このように、傷つく原因にはさまざまな種類がありますが、分類してみると次のように整理できると思います。

  • 1(意図的な攻撃) → 社会的に排除すべきもの。個人では限界もある。
  • 2・4・5 → 自分自身の「セルフコントロール」によって、ある程度減らしていける。
  • 3(価値観の衝突) → 完全に避けるのは難しいが、対処法を学ぶことで和らげることは可能。

特に3については、日常の中で非常に多く、しかも「避けようがない」場面も多いため、自分なりの“対処スキル”を身につけておくことが重要になります。


■価値観の衝突への対処法の一例

価値観の衝突に対して、できることをいくつか挙げておきます。
すべてを実行する必要はありませんし、自分の性格や状況に合うものを選ぶだけでも十分です。

  • ◎ 関わる必要がなければ、最低限の対応にとどめて距離を置く
  • ◎ 「相手と自分は違う」と割り切り、役立つ意見だけを受け取り、それ以外は流す
  • ◎ 話し合いによって相互理解を深める(ただし、話せば必ず納得できるとは限らないことも理解しておく)

このように「自分なりの対処パターン」を複数持っておくことで、日常の人間関係はかなり楽になると思います。
ただし、このあたりは非常に曖昧な領域であり、発達特性などによって困難を感じやすい方も多くいらっしゃいます。


■セルフメンテナンスの大切さ

最後にお伝えしたいのは、「心のセルフメンテナンス」の重要性です。

傷ついたり、ストレスを感じたり、疲れたりしたときに、どうやって自分の心を回復させるか——。
これを知っておくことは、社会の中で生きていく上でとても大きな力になります。

感情が処理しきれず、怒りとして外に出てしまうと、それはまた別の人を傷つけてしまい、負の連鎖が起きることもあります。
そういった意味で、「アンガーマネジメント」なども一つの手段になり得ます。


■おすすめのセルフメンテナンス例

セルフメンテナンスの方法は人それぞれですが、できるだけ多くの手段を持っておくと安心です。
以下に例を挙げておきます。

【人との関わりによるメンテナンス】

  • 愚痴を聞いてもらう
  • 人と楽しく過ごす(食事・お酒・遊びなど)
    ※ただし、相手の都合や自分の気力によっては難しいこともあります。

【ひとりでできるメンテナンス】

  • 趣味に没頭する(読書、音楽、手芸、ゲームなど)
  • たっぷり寝る
  • ペットと過ごす(癒し効果が大きい)

「人との関わり」と「ひとりの時間」の両方から自分を癒やす手段を持っておくと、よりバランスの良いメンタルケアができます。


■困ったときは、遠慮なくご相談ください

こうしたセルフメンテナンスの方法や対処法について、当所でも、可能な範囲でご相談に応じています。
「自分に合ったやり方が分からない」「どうしたらうまく気持ちを整理できるのか知りたい」など、お気軽にお声がけくださいね。

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みなみやま かつのり

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