2019年6・7月号 KSCE通信 「陰で暮らしを支える」

「陰で暮らしを支える」


 見ると幸運に恵まれるなどという話が広がって新幹線のドクターイエローが人気になった。
本来は線路や架線の状態を点検するための車両なので「陰で新幹線の安全を支える」のが役目だったのだが、注目される存在になった。
 現代の都市部を中心とする社会にはドクターイエロー以外にも、都市機能を正常に維持するための役割を果たしている存在がたくさん存在している。
 都市に電気を供給するための送電線は、定期的に点検されたり、交換されたりしているし、エレベーター、エスカレーターも定期点検されている。駅やデパートなど商業施設では、定期的にトイレの清掃や、フロア清掃が行われている。

 時々、トイレなどでは「ただいま清掃中です」とか「清掃中ご利用いただけますが、係員の作業をご了解ください。」というプレートが置かれているのに出会ったり、「○月○日、エレバーターの定期点検のため、○時から○時までエレベーターが停止します。」という予告プレートが掲示されているのを見ることもある。
 私個人としては駅でエスカレーターが止まっていると「ありゃぁ~」と思うことはあるが、階段を上がりきった頃には列車の到着まで何分あるのかとか、先の事に気持ちが移っていることが多いのだが、中には(止むに止まれぬ事情を抱えていたような人も含めて)不満を持ち続ける人も居るらしい。
そのためか、定期点検とかメンテナンス、修理といった作業は利用者の居ない時に行われることが多くなっているようだ。

 結果として私たちの知らない所(時間)で、知らないうちに保守点検が済んでいて、正常運転を維持している都市機能が、たぶん思っている以上にたくさんあるのだろうと想像される。
 利用する立場からすると、いつもの都市機能がいつも通り機能して、いつも通りに生活できるのは「ありがたい」事なのだが、「それが普通」の日々が続くと「普通」には「ありがたみ」を感
じなくなってくる。
 こういう風に話をすると、「ありがたみ」を忘れないように……とか、感謝の気持ちを持ちましょう……とかいう展開になりそうだが、そして、それは、それで一つの主張として「あり」だと
思うのだが、視点を変えてみると、この状況は「事実が隠蔽されている状態」とも思えるのだ。
 ちゃんと運営されていると見えていた企業が突然経営破綻してしまった……などということが起こったら「追加融資に奔走していた」とか「少しづつ人員整理を進めていた」ということが陰で行われていると「業績不振を隠蔽していた」ということで非難が集中することになるのだが、都市機能維持のための保守点検は(行われてさえいれば)見えないところで行われていても非難されることは無い。

 しかし、利用者には「その機能を保守無しに稼動させ続けると、何が破損して、どういう事態が生じるのか」という情報が隠蔽された状態になり、「安全性」は日々実感できるが、「危険性」は事態が破綻するまで分からないということになる。
 日々の生活の「安全を保障する」ということは、当然、悪いことではないが、「危険性を知らせる」ということも同じくらいに必要なのでは無いかと思える。
 わざわざCMとかで自社の製品の危険性を知らせる必要は無いだろうが、定期点検や保守メンテナンスの現場が人々の目に触れる頻度を上げて「へえ~、こういうのをしないと止まっちゃうんだ」とか「この位の頻度で交換しないと壊れるんだ」ということが利用者に分かるようにしても良いように思える。

 もしかするとドクターイエローみたいに「○○のメンテナンスマシンがカッコイイ」と人気になったり、「保守サービスマンの○○さんの技が凄い」とかでアイドル保守エンジニアが誕生したりするかも知れない。                            (スタッフT)

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