2019年12・1月号 KSCE通信 「絆か監視か」

「絆か監視か」


 電車で移動していたり街なかを歩いていたりするとスマホをいじっている人が多いようです。
……というか、スマホを見ていない人の方が少なかったりします。私は2008年に利用していた「TuKa Phon 関西」という携帯電話会社が「KDDI ( au )」に合併して停波したのをきっかけに携帯電話を持ち歩かなくなりました。
 不便を感じることになるかと思っていましたが、数ヶ月すると私と連絡をとる必要のある人も「直前(数十分前)の予定変更ができない」という状況に適応してくれたので、1日に1、2回デスクトップパソコンでメールを確認するだけで、特に不便を感じることなく過ごせる状態になりました。

 そのうちに世間ではノートパソコンを持ち歩くよりスマートホンを持ち歩く方が手軽だということでキーボードを打つ人より、画面をなぞる人の方が多くなっていきました。私もデバイス(機械)としてのスマートホンには興味があったので、大阪日本橋(恵美須町)の電気街のジャンクショップなどで「動作保障無し、返品不可」で500円から1200円くらいで売られている中古(と言うより廃
棄品)のスマホを何台か手に入れて、動く部分を寄せ集めて遊んでみたりしたことがあります。
 ただ、「静電容量型パネル」(つまりスマホの画面)を指でなぞっていると自分が猿になった気分になるので、正式に自分で使うためにスマートホンを買う気になれないまま過ごしています。

 なぜスマートホンを指でなぞっていると猿になった気分になるかというと、ずっと以前に見た霊長類のコミュニケーション能力を測る実験の動画のイメージが強く残っているからです。
 実験に参加していたのは「ボノボ」という「チンパンジーよりは、少し人間寄り」の猿で、実験の初期段階ではタッチパネルに触れるとエサが出てくるという装置で、パネルに触れるということを覚えさせ、次第にパネルに表示される絵と対象物(バナナとかリンゴとか)をマッチングさせていき、最後のほうではタッチパネルの絵や記号を使って文章を綴ることができるようにまでなっていくというものでした。

 使っている手法は、いわゆる「オペラント条件付け」というもので、人間に対しても「認知行動療法」の手法の一つとして、それなりに成果を挙げていたりするのですが、私個人はこの動画のイメージが、なぜか強く印象に残っていてパネルを指先でなぞっていると、自分がこの動画の猿(ボノボ)になっている気分がしてきて、居心地が悪いのです。
 「認知行動療法」的視点でなく、「精神分析」的視点で考えてみると、私は「猿(ボノボ)のやっている作業」の背後に「誰か(実験者)の思惑」があって、「自分で選択しているつもりで、誰かの思惑に誘導されている」という状態を感じて強い抵抗を覚えるのかも知れない……ということになるのでしょうか……。


 しかし、スマートホンの普及にともなって関連部品の開発が進み、タッチパネルが普及したため、スマートホンを常用していなくても電車の券売機や銀行ATMで「猿にならざるを得ない」場面が増えてきています。頻繁に体験することでタッチパネルへの抵抗が薄れるかとも思いましたが、今の所、居心地の悪さに改善の気配はありません。今でも個人的には一般のATMよりは、機械の周囲にメカニカルキー(昔ながらの押しボタン)が付いている「ゆうちょ銀行」のATMの方が好きです。

 そんな私が、最近衝撃を受けたスマホアプリが有ります。
それは「位置情報共有アプリ」で、キャッチコピーには『大切な友達と位置情報をシェア・「どこにいる?」はもう不要!現在地を共有しよう。』などと書かれていて、その評価は『「ソーシャルネットワーキング」内4位(☆の数、4.6)』とのことで、10万件を超える評価がされている(これって、それだけダウンロードされているってこと……?)とのことです。
自分の位置情報や「どの場所に、どの位滞在したか」「特定の場所への訪問頻度はどのくらいか」といった情報を「自らの選択で、他者(まあ家族、知人、友達ではあるのだろうが)と共有する」という物……。

 「ボノボ」が「他のボノボ」の情報を知ることができるということでコミュニケーションが濃密になるということだろうが、相手の情報を掌握するという見方をすると「監視装置」とも言える。しかも「他のボノボ」も、その「ボノボ」を監視できるのだから、それは「相互監視」しているわけ……。
強く「絆」を感じたいという思いがダウンロードを後押ししているのかもしれないが(以前にも書いたことが有ったと思うが)「絆(きずな)」は「絆し(ほだし)」と表裏一体……。「強い絆」は「切れない絆し」でもあるのだ……。

 「ボノボ」どうしのつながりの中でも「このアプリ」は何か問題を生じそうに感じてしまうのだが、それ以上に「このアプリをボノボに与える」ことで、「実験者はどいういう思惑へ誘導しようとしている」のか、あるいは「実験者」はどこかに存在するのか否か……。
「たくさんの人が集まる時にはマスクをしてはいけません」という「インフルエンザ流行促進」みたいなルールを提示した方面では、こういうアプリはどう活用されるんでしょうね……。
ボノボの皆さんは「使用許諾条件」をしっかり見てアプリをインストールしましょう。

(スタッフT)

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